彼方の音楽

毎日の中でこころ動かされたことを、つらつらと綴っていきます。

SNS時代のアーティストの応援の仕方【法律勉強編】

アーティストを好きになると、TwitterやInstagramで語ったり、お仲間を見つけたりしたくなりますよね。私も、フジファブリックやエレファントカシマシについて、大いに語り、熱く語り、さらには絵を描いて公表するまでに至っています。これらの活動のことを、個人的に、フジ活、エレ活なんて言っています。(例文「今日はフジ活の日!」)。

 

ただ、気になるのが、著作権その他の法令との関係です。法律の話はタダでさえ難しいのに、知的財産権関連の法律はその中でも難敵。いったい何がセーフで、何がアウトなのか、正確に知っておきたい方は多いと思います。

 

そこで、インターネットでアーティストを応援する活動に関し、

 

1 法律との関係

2 法律は時代(実務)に適合しているのか?

3 ファンとしてのマナー

 

に分けて語りたいと思います。第一回の今回は法律勉強編です。

 

 

 

ここでは、①歌詞をネットにアップすること、②画像、動画をネットにアップすること、③ライブレポートをネットにアップすること、と法律の関係について論じます。

 

法定速度を守って車を走らせる人が少ないように、ネットにはいろんなポリシーの人がいます。ただ、「少なくとも法律との関係ではどうか」ということは、前提として知っておいたほうがいいんじゃないかなということで、まとめてみました。

 

歌詞は、著作権法の「引用」の要件を満たせばネットに掲載することは適法です

 

やっぱりまずこの問題からですね。

なぜならば、私は過去に、JASRACから私のブログが違法であるとの指摘を受け、反論したことがあるからです。

その時のエントリーはこちら。 

manamisinging.hatenablog.com

  

このブログには「著作権」というタグがありまして、それで検索していただければシリーズが全部でてきます。長いです。

 

以下、正確に説明しようとするとどうしてもカタくなっちゃうんですが、我慢して少しおつき合いください。

 

著作権法は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を「著作物」として定義し、著作者の権利を保護しています。

その中には、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」というものがあります(著作権法21条)。複製、つまりコピーですね。

 

楽曲の歌詞は著作物なので、これを複製する、つまりネットに掲載することは、著作者しかできないことになります。

しかし、これにはいくつか例外があり、その中の一つに、「引用」があります。

 

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。(著作権法32条1項)

 

つまり、この「引用」の要件を満たせば、著作者でなくても、著作物を「引用して利用」することができます。

 

ではこの引用の要件とは何かというと、これについては、「法律の文言と、これに関する最高裁判例の文言がズレていて、簡単にスパッということが難しい」状況になっています。深入りしたい方はこちらをご覧ください。

 

manamisinging.hatenablog.com

 

もっとも、ファン活動の実務としては、最高裁判例に従っておけば問題はありません。「引用」の要件について、最高裁判例(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁)はこのように言っています。

 

「旧著作権法三〇条一項二号にいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいい、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物間に前者が主、後者が従の関係があることを要する。」

 

著作物をとりあげて、紹介したり、参照したり、論評したりすることはオッケーなんですけど、その場合には、それが自分の著作物だって誤解されないよう、「これは引用です。他人の著作物なんです!」とはっきり区別できるようになっていて、さらに、メインはあくまでも自分の著作物(自分の文章、絵、漫画、動画)でないといけない、ということです。

 

だから、楽曲の歌詞も、出典その他を明記してちゃんと区別できるようにして、それをしっかりと自分の言葉で紹介したり、論評したりしていれば、「引用」することは適法なのです。

 

本当にそうなの?Manamiさんの独自の見解なのでは?という方は、こちらのエントリーをご覧ください。

 

manamisinging.hatenablog.com

 

京都大学の大学の総長が、入学式の式辞でボブディランの歌の歌詞を引用し、それがネットにアップされています。JASRACは公式に、これを適法な「引用」であると認めましたので、これが適法な引用のサンプルです。

 

平成29年度学部入学式 式辞 (2017年4月7日) — 京都大学

 

画像についてアーティストにはどんな権利があるのか

 

画像は、それが「著作物」に該当すれば、歌詞の場合と同じ議論があてはまります。つまり、「引用」の要件を満たしていれば、著作権法との関係では適法です。

ただ、画像の場合、著作権以外にも、気にしなければならない権利があります。

 

それが、「肖像権」「パブリシティ権」です。

 

著作権というのは、「創作的表現」を保護するものです。写真であれば、撮影者が著作者です。他方、「肖像権」とは、そこに映っている人の権利です。

 

肖像権は、何か特定の法律に明記されているわけではないのですが、いろいろな事件の中で、「写っている被写体にも、勝手に酷い態様で名前や画像や動画を使われたくないという人格的な権利があるのではないか?」と判断され、そういった判断の積み重ねにより、権利が認められるに至っています。

 

メイク動画をネットにアップしたら、勝手にエロ動画に使われたら誰だって怒りますよねというのがわかりやすい例でしょうか。

ただ、町中を撮ったら、そこに写り込んでいる人全員の肖像権をもれなく違法に侵害していることになるのか、といったらそうではないです。裁判例で肖像権侵害が認められた事例というのは、被撮影者の人格的利益の侵害が、社会生活上受忍の限度を超える場合なので、いろいろ例外があります(裁判ってほんと、ケースバイケースで、細かく事案を判断しているんですよ)。

 

アーティストの場合は、これがさらに発展(?)して、「パブリシティ権」という権利が認められています。

著名人の場合には、肖像を商品の宣伝・広告に利用して販促につなげることが一般に行われていて、肖像そのものが顧客吸引力があるので、肖像そのものに経済的価値が認められることから、これを排他的に支配する権利を「パブリシティ権」といいます。

 

エレカシのミヤジの写真を勝手にTシャツにプリントして売ったらパブリシティ権の侵害になりますよ、ってことですね。

 

 

このように、歌詞の引用と違って、画像の使用は、著作権法のほかに、「肖像権」(だれでも持ってる)、「パブリシティ権」(著名人に認められる)もクリアしなければならないことがわかりました。

 

ファン活での画像の使用と法律の関係

 

実際のファン活に当てはめて考えると、法律上は、以下のようになります。

 

ブログに画像を引用

・著作権については、その画像について「引用」の要件を満たしている必要あり。つまり、画像そのものについて論評したり紹介したり参照する必要性がないとだめ。

・肖像権については、それがアーティストの人格を損なうような、社会生活上受忍の限度を超える人格的損害を与えるものでなければOK。ですので、普通に応援するブログなら大丈夫。もっとも、アーティストのプライベートでのお忍びの写真を勝手にアップしたら、肖像権侵害になるリスクは大きい。

・パブリシティ権については、そのブログでアフィリエイトをしていると、パブリシティ権の侵害になるおそれあり。

 

ツイッターで画像を引用

・アイコンに画像を使うのは、「引用」の要件を満たさないので著作権侵害。また、アイコンでなくエントリーの中で画像を使う場合でも、ツイッターは文字数に制限があるので、著作権法の「引用」の要件を満たすのは至難の業。相当な寸鉄の評言でないと厳しいか??

・肖像権については、アイコンに画像を拝借して、そのアーティストになりすまして勝手な発言とかしていればもちろんアウト。また、ツイッターで、アーティストのプライベートでのお忍びの写真を勝手にアップしたら、肖像権侵害になるリスクは大きい。なお、アーティストの画像をアイコンに使うのは、著作権侵害にはなるものの、通常は肖像権侵害にはならない(アーティストにそこまで人格的損害を与える行為ではない)と思います(私見)。

・パブリシティ権については、商品の宣伝に画像を使えばアウト。

 

動画はどうなのよ??

 

動画の場合、権利者がたくさんいて、問題がさらに複雑になります。

それが曲を演奏しているものであれば、音楽の著作物についての著作権(作詞者、作曲者)のほか、実演権という権利(演奏するアーティストの権利)がからんできます。また、テレビなどで放送されているものであれば、放送事業者に認められる権利もからんできます。また、コンテンツをインターネットにアップするように加工する、送信可能化権というのもからんできます。

 

とにかく動画は権利関係が複雑!

 

プラス、肖像権、パブリシティ権ですからね。

 

とはいえ、考え方の基本は画像と同じで、著作権のクリア、肖像権のクリア、パブリシティ権のクリアを考えていけばよいでしょう。もっとも、動画を適法に「引用」するのって結構難しいのではないかと思っています。

 

「これすごいから見て!」で終わってしまった場合、主従関係を満たさないと思われるからです。

単なる拡散目的でのアップはダメということです。

 

ライブレポートはどうなのよ???

 

ライブに行ったら、その興奮を他の人にも伝えたくて、ライブレポートをする人は結構いますよね。私も、結構、ライプレポートは行っています。

 

画像や動画、音声を使用せず、文字で行う限り、音楽ライブのレポートは適法です。アーティストがどんな発言をし、どんな仕草をし、どんな行動をしたかというのは、「事実」であって、発言、仕草、行動それ自体が著作物ではないからです。

事実を伝えることは著作権法違反ではないですよ。

 

アーティストの発言の無断転載は著作権法違反なのではないか、というのは間違いです。「著作物」(思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)に該当するかどうかは要件があり、裁判でもよく争われています。しかし、発言がすべて著作物になる人というのは・・・・語る言葉がすべて文芸、学術、音楽の範囲に属するということなので・・・・流石にこの世の人ではないのでは。

フジファブリックの山内総一郎さんもエレファントカシマシの宮本浩次さんも、MCで数々の名言を残していますが、さすがにこれは著作物ではないです。

 

 

なお、仮に「ここで行われたことは一切他言無用」という約束で行われたシークレットライブがあれば、約束に違反して公言することは違法になり得ます。これは、著作権法違反ではなく、「一切語らない」という条件で入場を許可したのにそれに違反した、ということで、一種の契約違反になります。

もっとも、そんな秘密集会みたいなライブは、一般的ではないと思いますが。

 

また、落語やお笑いなどのライブのレポートで、ネタそのものを細かく書いてしまったら、著作権侵害になり得ます。落語のネタやお笑いのネタは、脚本のようなもので、これ自体が著作物だからです。文字おこしすれば、複製権侵害ですし、ある程度要約しても、翻案権侵害になり得ます。

 

最後に

 

以上で勉強編を終わります。

このように、厳密に考えると、ネットのでのファン活は、いろいろな権利(特に著作権法)に抵触してしまう場合が多いと思います。

しかし、ツイッターのアイコンに好きなアーティストの写真を使っている人はそれこそ山のようにいて、アーティスト側もそれを黙認しているところはあります。動画や画像の拡散も同様です。SNSで拡散されることは、既にマーケティングの一手法になっているからです。

 

次回は、このような実態を踏まえて、著作権法がSNS時代に合致しているのか?という点を論じたいと思います。(がしかし、次回がいつになるかは、未定)