彼方の音楽

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JASRACが京大HP上でのボブディランの歌詞掲載について著作権法に定める「引用」と判断

JASRACが、京都大学のホームページに掲載されている平成29年度学部入学式の式辞においてボブディランの歌詞等が引用されていることについて、著作権法32条に定める「引用」であると判断したことを明らかにしました。

 

www.bengo4.com

 

 

 

当初の報道

 

問題となった京都大学のホームページはこちらです。

 

平成29年度学部入学式 式辞 (2017年4月7日) — 京都大学

 

今年の4月7日の京都大学の入学式での山極総長が式辞が全文掲載されています。京都大学のモットーは「常識にとらわれない、自由な学風」であることを述べる中で、ボブディランの歌の歌詞を引用しながら、「どんな反発があろうと、とっぴな考えと嘲笑されようと、風に舞う答えを、勇気を出してつかみとらねばならないのです。」と語っています。総長ご自身のこの歌に対するリスペクトが伝わってきますし、ポピュラーな歌の歌詞をこれからの大学生活という身近なものに繋げることで新入生を鼓舞する、素敵な式辞だと思いました。

 

また、式辞では、「最後に、皆さんに私の大好きな詩を贈ろうと思います。自分がもっとも美しかった青春時代を、戦時中の学徒動員と敗戦のがれきのなかで過ごした茨木のり子の「6月」という詩です。」という言葉とともに、この詩が掲載されています。

 

さて、このウェブサイトの掲示について、5月19日、京都新聞が以下のように報道しました。 

  

式辞に歌詞引用、著作権料を 京大HP掲載でJASRAC : 京都新聞

  

昨年ノーベル文学賞を受賞した米歌手ボブ・ディランさんの歌の一節を、京都大の山極寿一総長が取りあげた4月の入学式の式辞について、日本音楽著作権協会(JASRAC)がウェブ上に掲載した分の使用料を京大に請求していることが18日、関係者への取材で分かった。ディランさんの楽曲を管理するJASRACは「個別の事案のコメントは差し控える」、京大広報課は請求された事実を認め「根拠の詳細を知らされていないため、特に対応していない」としている。

 

 

さらに同日、ハフポスト日本版が、以下のような報道をしました。

www.huffingtonpost.jp

 

報道では、「京都大学広報課にJASRACの担当者から電話で問い合わせがあったという。「歌詞の引用をサイトに掲載するには、著作権料に関わる手続きが必要」という趣旨だったという。」とされています。また、「JASRACの担当者は「サイトに歌詞を掲載したことについて、京都大学に問い合わせをしたのは確か。引用に当たるか否かなど個別の案件については答えられない」と回答している。」とも記事には記載されています。

 

これらの記事が発端となり、JASRACが京都大学に、著作権使用料を請求したらしい、というニュースがネットを中心に流れました。そうしたところ、本日の定例記者会見で、JASRACが、京都大学の件は著作権法に定める「引用」として判断しており、著作権使用料を請求しない、と発言しました。

 

 

JASRACが京都大学に問い合わせをした内容が謎

 

式辞内容の掲載について京都大学に問い合わせをしたこと自体は、JASRACも認めていますが、その具体的内容については、報道ごとに微妙に温度差があります。

 

冒頭にリンクをはった弁護士ドットコムのニュースでは、「歌詞の利用目的の確認は、新聞などに対しても行っている「日常業務」で、困惑していることを強調した。」とあります。他方、5月19日の京都新聞の報道では、「許諾の手続きを求める電話があった。」となっており、ハフポスト日本版でも、「「歌詞の引用をサイトに掲載するには、著作権料に関わる手続きが必要」という趣旨だったという。」とされています

 

少し詳しいのばバズフィードの報道です。

www.buzzfeed.com

 

ここでは、JASRAC広報担当者の「利用許諾手続きについての案内はしましたが、それは制度についての一般的な説明で、みなさんに話していることと同じ説明です。許諾をとるように強く要求したわけではありません。」とのコメントが紹介されています。

 

著作権法32条に定める「引用」にあたるときは、許諾の手続は不要なので、仮に、JASRACが利用許諾手続きを求めたのであれば、JASRACは当初は、京都大学の件は「引用」には該当しないとの前提で対応していたことになります。

 

「いやいや請求はしてませんよ。案内しただけですよ」という言い訳は、ちょっと不合理に思います。だって、このシチュエーションで、利用許諾手続を案内する必要ってどこにあるんでしょうか?

  

また、「引用かどうかわからないので、とりあえず利用目的をきいてみただけ。そのついでに、口が滑って、利用許諾手続の案内をしただけ」という言い訳も、筋が通らないような気がしますね。

 この総長式辞の掲載の目的は、ウェブサイトの状況から明らかです。ホームページの「京大について」のタブに分類されていることからも、京都大学がどういう大学かを知ってもらうために、その目的のために、総長の式辞を掲載しているのでしょう。むしろそれ以外に、どんな目的が想像できるというのでしょうか。

 

もしかして、JASRACの担当者の方は、「京都大学は、ボブ・ディランの歌詞にフリーライドして、京都大学の知名度を上げよう!と企んでいる可能性もあるので、その点を確認すべし!」って思ったんですかね(嫌味です)。

 

でもやっぱり、引用における「目的」は、引用の態様から客観的に判断するべきであって、京都大学にインタビューする必要性は感じられません。

 

5月24日付の朝日新聞の報道では、JASRACは問い合わせについて、「ホームページへの掲載は多くの人がダウンロードできる可能性もあるため、京都大学のセキュリティーポリシーを確認する必要もあった」と述べたとありますが、JASRACにおいては、そのような可能性の有無が、「引用」に該当するかどうかの判断に影響する、との立場なのでしょうか。だとしたら、かなり独特な考え方なのではないでしょうか。だって、「たくさんの人が、京大総長の入学式の式辞の、感想も入り混じったこの部分をダウンロードして、勝手にボブディランの歌詞を二次利用されたら困りますから!」って本気で心配しているとしたら、ずいぶん奇特な考え方だと思うのです。

また、適法な「引用」である場合には、それが多くの人によってダウンロードされても全く問題ないのであり、ダウンロードされる可能性があると「引用」の要件を満たすかどうかの判断においてマイナスになる、というのはおかしな話ではないでしょうか。 

 

 

 本件で明らかになってよかったこと

 

本件をめぐる報道では、間違った記載も数多く見受けられました。大学は教育目的だからいいんだとか、いやウェブサイトに掲載すると公衆送信権を侵害するからだめだとか。

 

本件の争点はただ一つ、「引用」に該当するかどうかに尽きます。そして、歌詞も他の著作物と同様に、「引用」をすることが可能であり、その場合は利用許諾手続きは不要であることが一人でも多くの方の知識となれば、よいことだなあと個人的には思いました。

 

あと、京都大学にはそういう丁寧な問い合わせで、名もなき個人ブログにはいきなり「違法だから削除せよ」ってくるんだねー、という感想も持ちました★