彼方の音楽

毎日の中でこころ動かされたことを、つらつらと綴っていきます。

羽生結弦が五輪の魔物を斬った日

羽生結弦選手が、平昌オリンピックの男子フィギュアスケートで金メダルを獲得しました。おめでとうございます!

 

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最近の私は感動すると絵で表現するので、その日も、試合後にすぐさまiPadに向かって描き上げたのが上の絵です。夫に「ちょっと怖い」と言われてしまいましたが、実際、フリープログラム「SEIMEI」での羽生くんは、鬼気迫るものがありました。

 

「SEIMEI」は、夢枕獏原作の映画「陰陽師」のサウンドトラックから構成された曲で、羽生君自身が安倍晴明に扮しています。

 

 安倍晴明を題材にした小説、映画、漫画は多数ありますが、私としては岡野玲子の初期の「陰陽師」を推したいところです。

 

 

陰陽師 2 (ジェッツコミックス)

 

「SEIMEI」とアルファベット表記なのは、海外の人にも親しんでもらいたいということと、「せいめい」という日本語の単語は複数あるため、それぞれの意味を込めたかったということだそうです。

 

エレカシ脳の今の私は、「日本の生命 ウォーウオオ 世間の生命 ウォーウオオ」(「コールアンドレスポンス」作詞作曲:宮本浩次)とつぶやいてしまいますが、「晴明」「生命」「声名」など、確かにいろんな意味のある言葉です。

 

そんな「SEIMEI」ですが、羽生結弦選手の東洋的でしなやかな美を、余すところなく表現する素晴らしいプログラムでした。しなやかなだけではなく、凄みがありました。中国中央テレビの解説者の語った言葉がツイッターで話題になっていましたが、テレビの前で多くの人が、五輪のリングに現れた魔物を勇者である羽生選手が折伏しているその瞬間を目撃しました。

 

容颜如玉,身姿如松,飘若惊鸿,宛若游龙

(その顔は玉石のごとく、その姿は松のごとく、飛ぶ姿はオオハクチョウのようで、まるで竜が遊んでいるよう。)

 

命运对勇士低语:你无法抵御风暴。
勇士低声回应:我,就是风暴! 
(運命は勇者にささやいた、嵐には逆らえないと。勇者はささやき返した、わたしが嵐だと) 

 

右足首の状態は悪く、痛み止めを飲みながらのプレイでしたが、スケートに人生を賭けてきた彼自身のパワーが、すべてをねじ伏せて勝利をつかみ取ったのです。

 

彼は、競技前、金メダルを「誰がとろうが、僕もとります」と言っていました。結果にコミットすることを堂々と口に出す強さを、もてない人は大勢いるのではないでしょうか。結果ではなくプロセスが大事だとか、精一杯やれば素晴らしいんだとか、それはそれで一つの真理だと思いますが、その姿勢のどこかには、結果が出せなかった時の保険をかけている弱さもあると思います。

 

自分を徹底的に追い込んだ先に得られる輝きもあるのだと、羽生選手は身をもって示してくれました。

言い訳しない潔さ。

自分を追い込む強さ。

そんなものが、「SEIMEI」の時の羽生選手の凄まじい目つきに現れていたように感じました。