女優「のん」が出ているLINE MOBILEのCMが、とてもいい。流れる音楽はキリンジの「エイリアンズ」だ。
白いシャツの彼女が、何かを、誰かを見つめている。
瞬きをするのも惜しむように、ただ見つめている。
何か言いたそうに唇が瞬間、動くけれども、言葉は出てこない。風がわずかに彼女の髪を揺らすだけだ。
まるで僕らはエイリアンズ
禁断の実 ほおばっては
月の裏を夢みて
キミが好きだよ エイリアン
この星のこの僻地で
魔法をかけてみせるさ いいかい
(「エイリアンズ」作詞/作曲 堀込泰行)
撮影にあたり、監督は、彼女に江國香織の文庫本「つめたいよるに」を渡し、その中に納められた短編小説「デューク」の主人公を演じて欲しいと言ったという。
江國香織は、女の中にある「少女性」を描くのがとても上手い作家だ。その少女は、だいたいどこか孤独である。家庭環境が不幸だとか両親に愛されなくてとか、そういうことではなく、人が本来的に持っている孤独をまとっている。少女が出会い、すれ違う少年が孤独であるのと同じように、ただ孤独なのである。
「デューク」は、愛犬を亡くし、涙のとまらない主人公が、どこからか現れた不思議な少年と1日限りのデートをする話である。
もう一度だけでも会いたいという気持ち、奇跡がおきたことを信じたい気持ち、でもそれを認めることは永遠の別れを認めることでもあるという気持ち・・・・。
言葉にできないものが、彼女の胸を詰まらせている。
バックに流れるキリンジの歌は、彼女の孤独に対応する、魔法をかける側の想いとも受け取れる。
キリンジの楽曲の中でも屈指の名曲といわれるこの曲は、その歌詞の意味深さでも、多くの人を惹きつけてきた。「公団の屋根の上」を旅客機が音もなく飛び、「バイパス」が走る、都市近郊のどこにでもあるような街で繰り広げられる深夜のラブストーリー。「禁断の実 ほおばっては 月の裏を夢見て」という歌詞から、不倫の歌だ、ゲイの歌だ、いや快楽殺人の歌だなど、ファンは思い思いの解釈をしてきたが、少女と愛犬のラブストーリーだという説は(もちろん)これまでなかった。
そうさ僕らはエイリアンズ
街灯に沿って歩けば
ごらん 新世界のようさ
キミが好きだよ エイリアン
無いものねだりもキスで
魔法のように解けるさ いつか
手に入らないものを欲しいと願う
今は身を焦がすほどのこの思いも
いずれ解けて ほどけて
残るのは唇の上に残る冷たいキスの記憶だけかもしれない
でもそれでも今は
(photo: open-arms 「20110611 self development」https://flic.kr/p/9VLzcx)
すべてのパズルが組み合わさって、見事に一瞬でストーリーを語ってみせた、素晴らしい映像作品だと思う。