彼方の音楽

毎日の中でこころ動かされたことを、つらつらと綴っていきます。

「選ぶ」ことは、「ほかを捨てていく」ことだと思うのですよ

採用担当をずっとやっていたので、就職活動をする学生と話す機会が結構あります。我が業界はこれから就職活動シーズンが本格的に到来するので、今月はそうしたイベントが多いですね。そんなこともあって、少し自分の来し方を振り返ってみました。

 

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★★★

 

田舎から東京に出てきたクリスチャンの両親は、私を東京のど真ん中にある教会の土曜学校に放り込んだ。両親は知らなかったのだ。田舎と都会では、信者層がまったく違うということを。その土曜学校に来ている子供たちは、黒い車が迎えに来るような良家の子女ばかりで、公立の小学校に通っているのは私だけだった。

さらに、母親は、自分の夢だったという理由で、余裕のない中費用を捻出して、私に、(踊る方の)バレエも習わせた。こちらでも、周りは豊かな家の子供ばかりだった。

加えて、母親は、服飾関係の仕事を始めていたのに、予定外の妊娠で夢をあきらめざるを得なかったとかで、私の耳元で、「お前は女の子だけど、大学まではいかせてあげるから(但し国公立限定)、好きな仕事につきなさいね」と呪詛のようにつぶやき続けた。

 

そんなこともあって、「大きくなったら働いて、あわよくばしっかりお金も稼ぎたい」という信条は、私の人格形成の根本にたたきこまれたように思う。

 

私は、運動も苦手で手先も不器用で、本ばかり読んでいる子供だったので、大きくなったら漫画家になりたいなー、いや、新聞記者やジャーナリストもいいかな?小説家もいいかも?などと夢みていたが、絵がヘタで漫画家はあきらめた。小説家も、物語をクロージングさせる能力がないことがわかって、あきらめた。そして、結局、大学は潰しのきく学部を選んだ。

 

そして、大学に入学して、私は、ふらりと・・・・ふらりふらりと、学生劇団に入団してしまうのである。ちなみに、女優としてではなく、美術スタッフとしてである。サブカル的な活動に、どうしようもない憧れがあったのだ。これが私の人生を大きく変えることになる。

 

劇団の活動では、今まで会ったことのないようなキラキラした人たちに出会うことができた。そして、数年間、夢のような時間に生活の全てを投入した結果、自分にその方面の才能が全面的にないことが、心底わかった。

加藤さんが(ここでいきなりフジファブリック登場)、軟式野球の強豪高だった中学で野球部に入って「これは、ないな」と思ったというのと同じように、自分の限界を認識したのである。いくつかの挫折に、失恋まで重なって、まさに私の気持ちは「電信柱の剥がれかけた紙のような気分」(by岡村靖幸)だった。詳細は書かないが、ほんとに落ち込んだし、酷い顔つきで歩いていたと思う。その段階で、私が唯一、これならなんとかできるかもしれない、と思ったのが、●●だった(黒丸には適当な単語を入れてください)。

 

自己実現したい、お金も稼ぎたい、そして周りに認められたい、という私の根深い、ぐちゃぐちゃな欲求をまとめて面倒みてくれそうなモノはその時点でそれしかなかった。そこで私はなんとか大勢を立て直し、今ではその分野の仕事をしている。

 

もうこれ以外はない、という気持ちで臨んでいた。他の選択肢はないのである。なぜなら、それらはすでに捨ててしまったから。ここでがんばるしかないし、だからこそ楽しんでやりたいとも思った。人一倍働いたけど、そんなことは、かつて何度か味わった深い挫折感に比べれば何でもない。努力でなんとかなる話なら、チャラいものである。

 

だから、学生の皆さんには、「あるキャリアを選ぶことは、ほかの選択肢を捨てていくことです。でも、挑戦して初めて、それを悔いなく捨てることができるのだから、それは後ろ向きなことじゃない」と話すことにしている。

 

★★★

 

で、再びフジファブリックの話になるんですが、山総って「音楽をやるために生きている」とか言っちゃって、なんか「音楽しかねえ」って言いきっちゃってるところがありますよね。ギターは「魂です」と言ってるし。宇宙に行ったらやりたいことも「曲作り」だし。

 

去年、一人でニューヨークに行った時に、いろんなミュージシャンに会ったり、友達の家にあるギターを弾いてたんですけど、その時、これが通用しなかったら、もう自分はなんでもない人間やなと思ったりもしたんですよね。音楽ができなかったら、ただの観光客だなって。(FAB BOOK 221頁)。

 

その覚悟と、音楽一色に染められた人生観に、勝手に共感し、また憧れています。彼にとって、世界が色づく切っ掛けになったサッカーを挫折しているというのも大きいと思う。

この場所しかない、と決めているからこそ、そこにすべてを投入して、全身で楽しんでいる。

 

そんな山内総一郎氏の音楽を、これからも応援していきます。