2019年10月20日、晴れた日の夕方5時から、フジファブリックのデビュー15周年記念ライブ "IN MY TOWN"が始まった。
満席となった大阪城ホールのステージで、客席から星のように降る声援を浴びながら、ギターボーカルの山内総一郎は、泣き笑いのような何ともいえない表情を見せた。
10代の頃からいつか大阪城ホールで演りたいという夢を抱いていた、大阪出身のバンドマンの夢の一つが叶った瞬間だった。
大阪城ホールへの道
山内総一郎は、告知が得意なほうではない。サプライズのプレゼントを、楽しみすぎて背中に隠しきれない子供のようなところがある。
彼が「いつか大阪城ホールでライブをやりたい」と初めてファンの前で語ったのは、2017年6月27日にPerfumeと対バンしたフジフレンドパーク@Zepp Osaka Baysideでのことである。
フジファブリックのメンバーは亡くなった志村正彦(Vo, G)も含めてみんな地元での凱旋ライブをやっているが、山内の地元公演だけがまだ実現していなかったため、山内は大阪城ホール公演を自分の夢にすることに決めたと言う。彼らを応援する大きな拍手と声援が会場に響く中、山内は「時期も何も決まってないけど、今日発言してしまったので、たぶん本当にやると思います。今日が夢に向かってのスタートだと思うので、立ち会ってくださった皆さん、ありがとうございます」と感謝した。
その後、正式に"IN MY TOWN"について公表されたのは、それから約1年後、2018年6月29日のスガシカオとの対バンのフジフレンドパークだった。
この後、フジファブリックからから重大発表としてステージ後方のスクリーンに「フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE at 大阪城ホール 2019 IN MY TOWN 2019.10.20」」と映し出された。その時に鳴り響いた拍手と、「おめでとう」や「待ってた」が入り混じった歓声の大きさといったら。これまで志村の出身地である富士吉田、金澤の茨城、加藤は金沢と、メンバーそれぞれの故郷でライブを行ってきた。昨年2月、前作『STAND!!』を携えたツアーの大阪公演でも「地元のこの大阪で叶えたい夢があるんです」とMCで山内は話していた。「やっとみんなに言えた」という思いも込めて「大阪城ホーーーール!」と雄叫びをあげる山内を見つめる金澤は、「バンドの夢だし山内君の夢だけど、こうやって夢が叶う瞬間に立ち会えるのってすごく幸せ」と粋なことを言う。それは、この夜この場にいたリスナーをはじめ、彼らの音楽を愛する人すべての夢でもある。
フジファブリック、ゲストにスガシカオを迎えての 『フジフレンドパーク 2018』 そして来年デビュー15周年・大阪城ホールへ | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
正式発表までの間、ファンのなんとヤキモキしたことか。
だって、その3ヵ月前の「帰ってきた三日月ADVENTURE」ツアー大阪2days@なんばHatchでは、山内総一郎はMCで「フジファブリックは、この4月でデビュー14周年で、来年15周年を迎えます。」「10周年のときは、東京の武道館でライブをやりました。来年も、大きな花火を打ち上げられるように頑張りたいと思うので、よろしくお願いします!」なんて言い、金澤ダイスケは「山内総一郎を男にしてやってください!」なんて言ってたのである。
思わせぶりな発言にドキドキしながら、ファンは今か今かと、正式発表を待っていたのであった。
怒涛のプロモーション
大阪城ホールの客席数は最大16,000人で、武道館の14,471人より多い。また、一般に、東京よりも大阪のほうが集客は難しい。フジファブリックのツアーも、大阪よりは東京のライブのほうが、SOLD OUTになりやすい。
そのためか、フジファブリックの運営サイドは、大阪城ホールに向けて、今までにない力の入ったプロモーションを開始した。
まず、山内総一郎がツイッターを始めた。
今日からTwitter始めます‼︎
— 山内総一郎 (@ff_souichiro) June 29, 2018
よろしくお願いします〜‼︎
「‼」を多用するところといい、ほのぼの平和な感じといい、「確かにこれは山内総一郎本人がツイートしている」と確信できる第一声である。
山内は、以前からツイッターをやっていたキーボードの金澤ダイスケに「気をつけなよ」と注意するなど、SNSに警戒心を見せていたが、その後、驚くほど上手くツイッターを使いこなすようになった。
ちなみに、最新のツイートはこんな感じで、富士山四連発である(可愛すぎ)。ここでも安定の「言葉に二つのびっくり」が足されている。
一夜明け、まだ夢見心地です。
— 山内総一郎 (@ff_souichiro) 2019年10月21日
全国から来てくれた皆さまの心を沢山頂きました。本当にありがとうございました!!
来れなかった皆さま、これからのライブでまたお会いしましょう!!
それでは、これからもフジファブリックをどうぞよろしくお願いします!!🗻🗻🗻🗻
特設サイトも作られた。
このサイトが、実に素晴らしい。
1年半以上も先にある大阪城ホールまでの道のりを、ファンが少しずつ楽しんでいけるように、工夫が凝らされている。
例えば、「15の発表」は、最初にオープンになっていたのは「大阪城ホール」「手紙リリース」「山内総一郎ツイッター」だけで、それから少しずつ明らかになっていく仕組みだ。また、サポーターに登録すると、月1回のメルマガが届き、ポスターやサイトに名前(愛称)が掲示される。なお、このポスターを売ってほしいと思っているのは私だけではないはずだ。
チケットも、「初売りFABch受付」に始まって、「金澤ダイスケ完全監修/ドラゴンポテト発売記念受付」「バレンタインデーチョコッと受付」「ホワイトデー義理人情受付」「ありがとう平成受付」「令和もよろしく受付」「大阪城ホール・公演内容、初打ち合わせ受付」「玉田豊夢誕生祭 TT受付」など、何かにつけて(合計48回)受け付けた。
2019年に入ると、テレビや雑誌、イベントでの露出も増えた。
大阪のラジオ局であるFM802のイベントRadio Magicではホストバンドを務め、土井コマキちゃんの番組Midnight Garageにはフジファブリックのマンスリーコーナー「フジファブリックのドイドイ言わせて」が設けられた。
なんと、FM802は、フジファブリックのために特設サイトまで作ってくれた(マジで愛しかない)。
2019年8月9日には、音楽番組である「ミュージックステーション」に初出演し、「若者のすべて」を披露した。
IN MY TOWN当日、山内総一郎は、「僕の夢が、メンバーの夢になって、数人の夢になって、たくさんの人の夢になって、みんなの夢になって、それが叶ったのをこの目で見たら、もう僕はその力を信じるしかないじゃないですか」という趣旨のことを言ったが、確かに、山内総一郎の夢は、周りの人を巻き込んでいった。
このころは、ファンも、寄り集まると、「どうしたら大阪城ホールを満席にできるか」を議論していた(だいたい結論は、「私たち一人一人が、地道に周りの人に宣伝活動していくしかないね・・・」というものだった)。
ただ単に大阪城ホールでライブをするというのではなくて、その日を最高の日にしたかった。そのためには、やはり、満員の客席を、フジファブリックのメンバーに見てもらいたかった。
頂上で見よう絶景
遠くで輝き放っている
「オーバーライト」作詞作曲/山内総一郎
それが簡単ではないことは、山内総一郎自身が、誰よりわかっていたはずだ。
大阪城ホールの会場規模は10周年の日本武道館よりも遥かにハードルが高い。フジファブリックのことをより多くの人に知ってもらい、期待してもらわないと成立しないと思っていますし、長年の夢の実現は今までの経験だけでは叶わないと思っているので、魂のすべてを捧げて臨むつもりです。
山内総一郎インタビュー
そしてついに、2019年9月3日、大阪城ホールのチケットがSOLD OUTになったことが発表された。
(つづく)