フジファブリックのスマホ限定会員サイトFAB CHANNELに加入して一定期間経過すると閲覧できるコンテンツの一つに「メンバー私物紹介」というものがあるのですが、そこで、加藤さんが卯月妙子の「人間仮免中 つづき」を挙げていました。
なるほど加藤さんこれを読んだのか・・・・と思ったので、少し感想を述べてみたいと思います。
卯月妙子さんは、漫画家、エッセイストであり、元AV女優、SMストリッパーです(Wikipedia)。
漫画としては、「実録企画モノ」、「新家族計画」などを出していたのですが、読者層を広げた作品は「人間仮免中」です。
夫の借金と自殺、自身の病気と自殺未遂、AV女優他様々な職業…
波乱に満ちた人生を送ってきた著者が36歳にして出会い恋をした、25歳年上のボビー。
男気あふれるボビーと、ケンカしながらも楽しい生活を送っていた。
そんなある日、大事件が起こる――。
年の差、過去、統合失調症、顔面崩壊、失明……
すべてを乗り越え愛し合うふたりの日々をユーモラスに描いた、感動のコミックエッセイ!(amazon の「内容紹介」)
「感動のコミックエッセイ」などと書いてありますが、相当読み人を選ぶ作品です。アマゾンのレビュー(115件あります)で、星ひとつのレビューを読むと、よくわかります。
主人公の生き様が、とにかく凄まじい。この人は、こういうふうにしか生きられなかったんだろうと思いますが、周りの人間は本当に大変だったろうし、本人も大変だったろうし、とにかく大変だったろうとしか言いようがない。
主人公は、長年投薬治療を受けていたのですが(「ケンカしながらも楽しい生活」なんていうサラッとした日々ではありません)、自己判断で薬を減らした結果、事故を起こしてしまいます。入院中は、統合失調症の症状として酷い妄想に陥っており、それがそのまま漫画として描かれているので、読んでいるこちらまで、足元のおぼつかない感覚になります。他人の見ている悪夢をそのまま覗いているような感じなのです。そういう意味では、恐ろしく人を引き込むパワーのある本です。
「人間仮免中 つづき」は、その続編です。私は、「人間仮免中」のほうは、読んだ後、辛くなって捨ててしまったのですが、「つづき」が出ていると知って、買ってしまいました。彼女がどうなっているか、やはり気になってしまったので。
「つづき」のほうは、「人間仮免中」ほど、心をエグっては来ませんし、彼女の現在を知ることができて、やはり少し胸をなでおろした感覚はあります。
前作『人間仮免中』刊行直後から次回作となる本作執筆を進めてきた卯月さんですが、途中病状の悪化があり、何度も中断を余儀なくされました。
しかし、この続編をなんとしても仕上げて、ボビーさんに読ませたいという卯月さんの強い強い想いがあり、長い時間がかかりましたが、ようやく本作を上梓することができました。
今回も、深刻な現実をユーモラスに描き、笑いと涙と感動を呼ぶ筆致は健在です。
また、東日本大震災での経験を描いた番外編「3.11」も、卯月さんならではの傑作となっています。
幾多の本があふれる中、心の奥に確実にズンと響く素晴らしい作品となった本作を、是非ご一読ください。(amazonの「出版社からのコメント」)
人が表現をする動機はいろいろあります。
たまに、表現せずにはいられない、もうそのようにしか生きられない、という人もいます。その欲求はもう業と呼ぶべきものですが、その業が深ければ深いほど、作品はパワーを持つのかもしれない・・・・そんなことを思わせる漫画です。
そして、あんな詩を書く加藤さんの本棚に、この本が納まっていることに深ーく納得もしました。