フジファブリックのニューアルバム「STAND!!」のラストを飾る「the light」は、金澤ダイスケさんの作詞作曲です。
「the light」には、「ああ僕らはどこまでも行けるさ この場所から見える景色超えて」という一節があります。他方、金澤ダイスケさんは、公式サイトで、「比喩の部分が多い曲である為、歌詞についてはあまり解説し過ぎないようにしようと思う。ただ一つ言っておきたいのは、このバンドもっともっと行けますよって事。」と語っています。
とすると、この曲は、フジファブリック自身のこと、金澤ダイスケさん自身のことを歌っていると考えることができるのではないでしょうか。そこで、以下、その筋にたって、この曲の歌詞を読み解いてみたいと思います。
ーーーーーーーーーーーー
砂の上を冬の風がそっとなぞる
二人残す続いてく足跡
夜の海は寂しいとか言ってたけど
なんでだろう悪いもんじゃないな
足跡が二人ということは、歌い手は一人ではなく、誰かと連れ立って歩いているということになる。しかし、砂の上の足跡は、風になぞられ、少しずつ、崩れていくのだろう。それは、時の経過、記憶の風化を連想させる。
ここで、「夜の海は寂しい」と言っていたのは、誰なのだろうか。今、歌い手と連れ立って歩き、足跡を残している人物だとすると、「言ってたけど」と過去形で語るのは少しおかしい。
道の向こう回る灯台
動き出した船が浮かぶ
灯台へと続く道があり、その先には船が見える。その船は、やっと動き出したところだ。
ああ僕らは何か探してるの
答えならばわかっているけれど
規則的に映る君の顔が
いつもよりも綺麗に見えた
灯台の光で、浮かび上がる横顔は誰のものなのか。
フジファブリックを聴き続けてきた私たちの脳裏に浮かぶのは、丹精で、目が大きく、色白なあの人の顔だ。
灯台の光に照らされた瞬間だけ映し出される相貌。
その人物は、此岸にはもういない。
歌い手は、今でもその人物の横顔を見続けているのか。
探しても見つからないと、答えはわかっているのに。
海の匂い 見えない波 身を震わせ
寄せて返す不安 足が止まる
昏い海の波の音は人を不安にさせる。
彼ら3人はどこに行けばいいのだろう?
世界の端照らしていく
淡い光眺めていた
でも、そこには光もあるのだ。
世界の端まで照らす灯台の光が、彼らを導く。
果ての向こうは、かつて彼らが目指した地平でもある。
ああ僕らはどこまでも行けるさ
この場所から見える景色超えて
君をそっとたぐり寄せささやく
波の音に邪魔されないように
本質的でないすべての物事から成る騒音に取り囲まれても、それらを乗り越えて、先に、先に進んでいくことができると思う。そして、そのことを心の中でそっと彼に伝えてみる。
ーーーーーーーーーーーー
志村君を失ってから、加藤さんは「会いに」を作り、総君は「ECHO」を作りました。志村君と特別な距離にいた金澤ダイスケさんは、今ようやく、この曲を作れたんだなと思います。この段階にくるまで、想いを曲の形にすることができなかったのかもしれません。
そう思って聴くと、エフェクトの効いた総君の声は彼岸との境界を感じさせますし、ラストの怒号のようなセッションには鳥肌が立ちます。
いろいろな解釈ができる曲ですが、こんなふうな聴き方もあるよ、ということで書いてみました。