平安時代のたわいない日常をゆるやかに描いた漫画「千歳ヲチコチ」が、8巻で完結しました。
amazonの「この本を買った人はこんな本も読んでいます」に導かれて偶然見つけた漫画でしたが、とても面白くて一気に1巻から8巻まで読んでしまいました。
虫が好きなどちょっと変わった平安時代の中流貴族の娘「チコ」は、
生き物は積極的に触りにいくし
とりあえず自分でやろうとするし
楽器や調度品を分解しようとするし
さすがに最近は注意されてわきまえるようになっちゃったけど
それでもやっぱり他の女の子とは違うわ
と、しっかりものの友人の登姫に評されています。虫が好き、という設定は、「蟲愛ずる姫君」*1からの連想でしょうか。
そんなチコの物語と、真面目な貴公子の亨の物語が、交わりそうで交わらない、微妙な感じですすんでいく物語です。
登場人物の台詞などは現代風ですが、平安時代の風俗は丁寧に描かれています。日常を淡々と描いていながら、少しずつ盛り上がって、最後に大団円を迎える運びが見事でした。
平安時代を描いた漫画といえば、こちらの洗礼を受けた人は多いでしょう。
この漫画がなかったら、「源氏物語」を知る人は今ほど多くはないのでは?と思うくらい、影響力のある作品ですよね。原作のストーリーに忠実であるため、古典の教材として使われることもあるようです。
大和和紀先生の絵が壮麗で、カラー絵など、うっとりとため息が出ます。ホワイトでふちどりした十二単の美しいことといったらないです。女性キャラの見分けが難しいのと、源氏のアゴがどんどん長くなっていったのはご愛嬌。
私の平安時代好きを決定的にしたのはこちら、氷室冴子の「なんて素敵にジャパネスク」。漫画化もされている、大ヒット少女小説です。
最近、復刻版も出ましたが、私は旧版の挿絵のほうが好きです。
内大臣家の姫である瑠璃姫が、帝の即位をめぐる陰謀など、いろんな事件に巻き込まれていくんですが、ドラマチックで、かつ、結構泣けるんですよね。中学生だった私は、多大な影響を受けました。同じ氷室冴子の「とりかえばや物語」をベースにした「ざ・ちぇんじ!」も傑作です。
時代が下って最近では、百人一首をメインとする恋愛をテーマにしたオムニバス形式の漫画、杉田圭「うた恋!」がオススメです。在原業平×藤原高子、藤原行成×清少納言、文屋康秀×在原業平×小野小町(あくまでも友情)、などいろいろなカップルが登場します。
現在、4巻まで出ています。チャラそうな表紙に惑わされるなかれ、キャラクター設定がしっかりしていて、とても面白い作品です。
清少納言のキャラクター造形は秀逸です。結構、嫌な女に描かれることが多い彼女ですが、「うた恋 3」に出てくる清少納言は、サッパリしていて情があって、好感が持てます。オタクでいじいじした紫式部(でも雇い主である道長の命に逆らえず清少納言の悪口ブログ(紫式部日記)を書いた)という設定も面白いです。
清少納言の「枕草子」は、橋本治の桃尻語訳が面白いです。「春は曙」を、「春は曙が良い」ではなく、「春って曙よ!」と訳しています。つまり、言葉を継ぎ足してないのです。
平安時代ものについて語り始めると終わらない。
それくらい魅力的な時代ということですね。
*1:「堤中納言物語」に出てくる姫君。風の谷のナウシカは、ここから着想を得たそうです。