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彼方の音楽

毎日の中でこころ動かされたことを、つらつらと綴っていきます。

映画「ボーダーライン」 絶望のなかに覚悟がある

映画
 

メキシコの麻薬カルテルとの闘いを描いた映画「ボーダーライン」を観てきました。

border-line.jp

 

とてもよい映画で、しばらく現実世界に帰ってこれませんでした。

練られたストーリー、抑制された演出、不穏な音響、詩情あふれるカメラワーク。

どれも素晴らしかったんですが、でも何より最高だったのは

 

ベニチオ・デル・トロ!

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もうだめ、

もうだめです私・・・・。

 

あらすじを抜粋すると以下のとおりです。

メキシコとの国境地帯ではアメリカ側で麻薬組織による犯罪が広がっていた。FBIの女性捜査官ケイト(エミリー・ブラント)はアリゾナ州でその実態の恐ろしさを目の当たりにした。そして彼女は政府機関よりメキシコの麻薬組織のボスを逮捕するための特殊部隊にスカウトされる。そこではCIAのマット(ジョシュ・ブローリン)とメキシコ系のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)が秘密裏にメキシコ国内に侵入しては違法性の高い捜査を続けていた。

より大きな敵のために手段を選ばない特殊部隊の方針に反発しながらもケイトは任務に参加する。そして殺し殺される現場のなかで彼女は苦悩を深めていくのだった。

 

エミリー・ブラントはエラかったです。こんなに報われないヒロインは昨今いないでしょう。利用され、囮に使われ、殺されかけ、殴られ、また殺されかけ。

 

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「ウルフマン」では、きれいなドレス姿で、ベニチオ・デル・トロに求愛されていたのに!

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以下、ネタバレ感想です。

 

ベニチオ・デルトロ、最初の登場シーンから、すでに怪しいです。怪しさ満載。

エミリーが「あなたの専門はなに?」って聞いちゃうのも頷けます。どうしたって捜査官には見えませんよアナタ!まず目つきが死んでますしね。

 

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そして、飛行機の中で悪夢にうなされ、飛び起きるデルトロ。後の展開で、デルトロが未だ終わりなき地獄にいることがわかるのですが、屈強な男が悪夢にうなされている様子に、まずぐっときます。私のハートはここで半分掴まれました(だから、「ウルフマン」での血塗れデルトロも美味しくいただきました)。

 

また、メキシコの危険地帯ファレスに到着して、エミリーに言った台詞。

Listen, nothing will make sense to your American ears, and you will doubt everything that we do, but in the and you will understand.

(聞け、お前たちアメリカ人には何も理解できないだろう。俺たちのすることすべてに疑いを持つだろう。だが、最後には君も理解する。)

 

この台詞は、まさに、この物語のすべてを象徴しているのですが、こんな謎めいた台詞をかすれ声で投げ捨てるように呟いて立ち去るデルトロ。立ち尽くすエミリー。私も立ち尽くすよ。

 

エミリーは、学級委員みたいな正義感を持っていて、実にイラっとくるのですが、これはデルトロやジョシュ・ブローリン(プロフェッショナリズムをチャラい行動でくるんでる百戦錬磨のCIA)の行動を相対化するためなので仕方ないです。観客は、エミリーと一緒に、混乱したり、苛立ったりします。

 

その後も、デルトロは、高速道路でマシンガンぶっ放したり、死にかけたエミリーを助けて「君は、俺の大切な人に似ている」と言ったり、鼻歌歌いながら水ひっさげてマフィアの幹部を拷問しに行ったりして、私の心を揺さぶったのですが、最後、カルテルのボスの家に侵入し、ボスファミリーの食卓に乗り込んでからは、特にしびれました。

 

「たべろよ、たべろ」と言って、夕食を続けさせながら・・・・ああ無慈悲!

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そして最後。

暗闇の中でエミリーに銃を向けるデルトロ。

このラストシーンが一番好きです。

優しいのか、残酷なのか。絶望の中に覚悟があることを見せ、背中を向けて立ち去るデルトロ。そして、「SICARIO」(スペイン語で暗殺者、の意味)の表題が現れ、ああ、デルトロこそが暗殺者だったんだ、と腑に落ちます。

 

しびれるよ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督!

 

「登場人物たちを太陽に照り付けられたシルエットとして登場させたかった。モンスーンの季節での撮影だったので、毎日雷雲が発生し、目を見張る様な空になった。空がまるで物言わぬ第三の登場人物のようで、ケイトが顔に出す苦悩や、ケイトの内面に渦巻く葛藤を詩的に表現しているかのようだった。砂漠の荒々しく、生々しく、無限に広がる大地が残酷にも人に内省を強いる。国境地帯はそういうところなんだ。それを直に経験した。」(パンフレット「PRODUCTION NOTE」〔ドゥニ・ヴィルヌーヴ〕)

 

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(とても美しかった、メキシコへのトンネル潜入前のシーン。ロジャー・ディーキンスさすがです。)

 

無限に広がる大地が残酷にも人に内省を強いる。少し、村上春樹の「国境の南、太陽の西」を連想しました。

 

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

  

ベニチオ・デルトロと麻薬といえば、彼が世に出るきっかけとなったソダーバーグ監督の「トラフィック」も傑作です。クライム・サスペンスが好きな人にはこちらもおすすめ。

 

トラフィック [DVD]

 

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(素顔では笑顔がチャーミングなデルトロ)