フジテレビ土曜日深夜の番組「久保みねヒャダこじらせナイト」で、「モテキ」の原作漫画を描いた久保ミツロウが岡村靖幸とデートしてたんですが、そこで岡村靖幸が、「逢沢りく」の他に挙げていたのが吉田秋生「海街diary」シリーズでした。
岡村ちゃんが少女マンガを読んでる、っていうだけで嬉しいのに、それがしかも海街diaryとかって・・・・!
いろんな意味で感慨深いです。
なのでこれはもう、語るしかない。
吉田秋生は、第一線で活躍し続ける、キャリアの長い少女漫画家なのですが、彼女の作品には「天才的頭脳を持つ美形がド派手なアクションを繰り広げる」系統の作品と、「こやまかな感情の機微を描く」系統の作品があります。
前者の代表作は、「BANANA FISH」。
1985年から1994年まで連載されました。大友克洋のAKIRA(1982 年)の影響を受けた絵柄でスタートしたこの作品は、少女マンガなのに、ニューヨークを舞台としたハードな内容で話題を集めました。少女マンガは、昔から結構ハードな題材を扱ってはいるのですが(「風と木の歌」とか)、これはベトナム戦争とコルシカ・マフィアとキッズ・ポルノですからね。ハードの質が他と違います。
ちなみに、最終巻での主人公(アッシュ・リンクス)はこんな感じのルックスです。
吉田秋生的美形の絵柄が完成されています。
その後、この系統は、天才的双子を主人公とする「YASHA」
その娘を主人公とする「イヴの眠り」
と受け継がれていきます。
天才的頭脳×美形×抜群の運動神経の主人公が心ならずも修羅の道に巻き込まれるという、まあてんこ盛りの話なわけですが、面白い。そして泣ける。少女マンガ的娯楽活劇とでもいいましょうか。ツボを押さえまくったキャラクター造形とストーリー展開に、惹きつけられずにはいられないのです。
ちょっと横道にそれますが、「吉祥天女」(高校生たちが次々に死んでいく、ちょっとホラーっぽい物語)もどちらかというとこちらの系統でしょうね。天才的頭脳×美形が出てきますので。
吉田秋生のすごいところは、これらとまったくテイストの異なる「こやまかな感情の機微を描く」系統でも傑作を産み出しているところです。
なんといっても白眉は、「カリフォルニア物語」。カリフォルニアとニューヨークを舞台に繰り広げられる家族と友情の物語です。
なんでこの人はアメリカのことをこんなにリアリティをもって描けるのか・・・ほんとはアメリカ人なのか・・・と不思議に思うほど、すごい作品です。吉田秋生は、20歳の時にこの作品を描いたというのですから、驚きです。
日本を舞台に移すと、こちらも有名です。ベタ塗りを生かしたスタイリッシュな絵柄で、女子高校生の繊細な心情を描き出しました。
こうしたキャリアを経て、美形は出てくるけど超人ではなく、同性愛テイストもサラッとだけ織り込まれた、「ラヴァーズ・キス」を経て、
いよいよ「海街diary」シリーズが始まるのです。
「海街diary」シリーズでは、四姉妹の物語を軸に、どこにでもあるような人間関係の中で生まれる感情のさざ波が、鎌倉の街を背景に細やかに描かれていきます。
中学生のすずや風太が、あまりに感情の機微を読みすぎている、出来すぎだ、なんて指摘もあるようですが、今までの吉田秋生の物語の登場人物にくらべれば、ずっと普通の人間ぽいから!と、私なんて思ってしまいます。
まあこんな風に、吉田秋生作品をコンプリートしている私からみても、「海街diary」シリーズはよくできた作品だし、これまでの吉田秋生の作品に比べると、より大勢の人に受け入れられる内容であることは分かります。ストーリ―、キャラクター造形、コマ運び、絵柄、どれをとっても、長年第一線で描き続けてきた作者だからこその円熟の技が冴えわたっています。まさに名人の作品。
さて、そんな私が実は一番好きな作品は、「BANANA FISH」の外伝である「ANOTHER STORY」に収められた「Fly boy, in the sky」です。これは、BANANA FISHに出てくる英二の前日譚ということになっていますが、BANANA FISHの英二とは性格もちょっと違うし、別の作品として捉えたほうがいいと思います。
空気感がとてもいい話なのです。
あと、そこはかとない、少年の色気みたいなものを感じさせます。
吉田秋生の作品が好きな方には、ぜひ読んでほしい佳作です。