人間ドラマ+少女マンガ的ポエム+BL的萌え、のすべてが詰め込まれた羽海野チカの傑作「3月のライオン」もいよいよ11巻を迎えました。
先日漫画を断捨離しましたが、「3月のライオン」は維持組に入りました。この人の漫画は絵の書き込みが凄いので、紙媒体のほうが読みやすいですね。
またこの作品は、絵だけではなく、ストーリーも要素がてんこ盛りです。主人公は中学生でプロ棋士になった少年ですが、物語は、彼を取り巻く人間たちのいわば群像劇です。絵やコマ運びの文法は少女マンガなのですが、ヤングアニマルで連載していることからもわかるとおり、内容は男女問わず楽しめる大人向けとなっており、ゆがんだ女子イメージを持っているように思われるフジファブリックの山内総一郎氏にもぜひ読んでもらいたい少女マンガの一つです。
川本家の次女であるひなちゃんのいじめ事件がひと段落ついて、この巻では、川本家の父親と主人公が対決します。以下、ネタばれありの感想です。
川本家に自分勝手な提案を繰り出す
彼女たちの父親・誠二郎に、
一歩も引かずに渡り合う零。
あかり、ひなた、美咲、相米二、
川本家の皆が彼の存在の大きさを感じていた・・・。
(11巻裏表紙)
この誠二郎のサイテーっぷりがいい味出しています。
あかりたちの父親である誠二郎は、女をつくって家を出て以来、養育費も支払っていなかったのですが、ある日ふらりとやってきて、「もう一度ここで家族揃って一緒に暮らそう!」「(再婚した今の妻と子供も)勿論一緒だ」「最初はそりゃあぎくしゃくしてしまうだろう」「だからもし心配なのだったら、お前たちは暫くおじいじゃんの店の方に移っていてもいい!」と笑顔で言い出します。つまり、あかりたちが今住んでいる家(母方の実家)を寄越せ、お前たちは出て行っていいよ、と言うわけです。
アリエナイ提案ですが、これを、さもお前たちのために言ってるんだ!みたいなトーンで言うわけです。怖いですね。
11巻では、誠二郎の今の妻が病気であり、さらに誠二郎はすでに次の女をつくっていて、病気の今の妻と娘(あかりたちには異母妹にあたる)をあかりたちにおしつける魂胆であることがわかります。
羽海野チカは、この手の「悪意」を描くのが結構上手ですよね。ひなちゃんいじめ編の、いじめっ子の女子も、かなり嫌な子でしたが、誠二郎のサイテーっぷりはその上を行っています。川本家の娘たちと顔がそっくり(目がくりっとしたかわいい顔)なのも、不気味さを増量しています。
主人公の桐山零くん(川本家の次女にプロポーズ済み)が誠二郎と対決するシーンが、この巻のハイライトです。「何かさ・・・思うんだよね 俺って カッコウみたいだな・・・って」と謎の台詞をキメる誠二郎に対し、零くんは、
もういい 黙れ・・・ ふざけんな
「カッコウでもいいや」と思えるんなら
裸で木にとまって 虫でも食ってろ
と言い放ちます。
成長した!いいぞ桐山零!
なお、川本家に泊まって、朝起きたら三姉妹に囲まれていて、ズボンと靴下まで脱がされていた主人公(高校2年生)が、朝の男性の生理的現象に見舞われていなかったのは、やっぱり羽海野チカワールドだねーと思いました。好きな女の子が隣に寝ていて、夜は銀座でホステスやってるナイスバディのあかりさんが反対側に眠っていたら、普通は・・・・ねえ?
羽海野チカには、いずれ、大人のラブストーリーにも挑戦して欲しいと思います。