彼方の音楽

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よしながふみ「大奥」12巻 絶望を描けるものこそが希望を描ける

よしながふみのSF2大河ロマン「大奥」の12巻が発売されました。医療編、終結です。

 

大奥 12 (ジェッツコミックス)

大奥 12 (ジェッツコミックス)

 

医療編、衝撃の結末!

そして、時代は激動の幕末へー!

田沼意次、青沼、平賀源内、黒木、伊兵衛、そして十一代将軍・家斉…。

連綿と受け継がれた赤面疱瘡撲滅への遺志が辿り着いた場所は――。

今、時代に新たな波が、静かに、静かに、立ち始めていた――!

 

男女逆転大奥として、映画化もされたこの作品は、間違いなく、よしながふみの最高傑作になりつつあります。人間の業を冷徹に描かせたら、今この人の右に出る漫画家はいないんじゃないでしょうか。

 

以下、ネタバレありです。

 

 

 サイコパス治斉、死ぬ直前まで、怖っ!!!!

 

特に、集めた美男たちに、毒入りの食べ物の早食い競争をさせて、毒があたった者がいると「ほほほこれは永野大当たり!ほら皆の者笑わぬか!」「ほれ永野大当たりのほうびじゃ 生き残ればみなそなたのもの気張れよ」といって、口から血ながしながらゼエゼエ言ってる永野本人に「はい はい けっこうなお味でございまする!」と言わせてるシーン、怖いよ~(123頁です)。

 

なぜ怖いかというと、やっぱりリアリティがあるから。ある人から、建設がらみの接待で、だされた料理に醤油とか酒とか塩とかバンバンぶっかけられて、「どうぞ♪」って言われて、しょうがなく全部食べた(しかも迫る方は笑って見てる)はなしを聞いたことを思い出しました。こういった、自らの権力を確認し、味わいたいがためのマウンティングって、現代社会でもよくありますよね。

 

そして156頁。もう何も言えません。怖すぎです。

 

しかし、そのさらに上を行く御台の努力。ここは救われた。救われたんだけど、その救いの中にさらに、

 

・最後まで毒親の支配から逃げられず、自分を殺そうとし、自分の子供も二人まで殺した母親を助けたいと願う家斉の弱さ

・それを、半ばあきらめ、半ば予想し、受け入れる御台

・長生きしちゃう治斉のサイコパス的体力

・そのあと、御台を信じられなくなってしまい、男女の関係に戻れなくなる家斉の業

 

といったものを混ぜ込んでくるあたりが、エグい。そして良い。

 

治斉が残酷で、多くの人が酷い目にあってきた、その報われなさが歴史のリアリティだと思うし、だからこそ224頁の家斉が亡くなる際の御台との別れのシーン(二人が若い頃に戻っている)が心に迫ります。

 

やっぱり、漆黒の闇を知る人でないと、そこにかすかに煌めく希望の光は描けないのだなと思います。

 

そして、ラスト。家定、めっちゃクセがありそうです!私の大好きな幕末という時代を、よしながふみがどのように描いてくれるのか、今からワクワクがとまりません。