最初聴いたときは、なんだか妙な曲だと思った。でも、朝と夜、アルバムを流して聴いた後、日中退屈な長い会議の最中も頭の中でずっと鳴っていたのは、この曲だった。
ALONE ALONE
呼びかけても空しい響き
今でも僕を孤独にさせる
あの頃僕らの見ていたものが
幻のように記憶の中騒ぐよ
全体を通して歌詞を見ると、誰かに出て行かれた若い男の歌のようである。途中、ラップのように歌われる以下のフレーズからは、出て行ったのはやはり「彼女」なのだろう。
頬触れる柔らかな手
そっと耳をくすぐる声
いっそ忘れられるのならば
思えば思うほど溢れるため息
ただ、楽曲全体の持つリズム感というか、前面に出ているギターの音の感じが非常に乾いているので、「別れの後」を歌っているわりには、湿っぽさがない。この歌い手は、「自分は一人だ」と孤独を実感しながら、ひたすら走り続けている。
モヤモヤ今日も飛び出した一人
ALONE ALONE
宵闇迫る影が溶ける
今でも僕の情熱呼び覚ますよ
ありふれた明日を信じていたのに
陽炎のように記憶の中揺れるよ
歌い手は、思い出を振り払うように、走り続けている。感情と、それに対する対処法のちぐはぐさが、奇妙なリアリティを持つ。この歌い手が「彼女」に出て行かれたのは、もうかなり昔のことなのではないかと思う。
ALONE ALONE
呼びかけても空しい響き
今でも僕を孤独にさせる
「彼女」も自分も、既にほかの暮らしをしているのかもしれない。それでも、ふと、その人の名前を呟くことがあって、そうするたびに、実感された不在が孤独を際立たせる。いい加減、きれいさっぱり忘れてしまえばいいのに、それができない。
男の恋は別名で保存、女の恋は上書きで保存という。男にとってかつての恋人は、事情があって別れてしまったけど今でも自分を好きかもしれない、憎み切れない存在であることが多いのに対し、女にとってかつての恋人は、物凄い勢いでどうでもいい過去の人になっていく(ケースが実に多い)ことを揶揄した表現である。
そういった男心を「切ない」と表現することもできるし、「ありがちだね」と醒めた目で見ることもできる。私はどちらかというと醒めた目で見てしまう方であるが、この曲のギターの音がひどく乾いているせいで、嫌な感じはせず、むしろその青い感性を魅力的と思う。
等身大の山内総一郎、という感じの曲である。