彼方の音楽

毎日の中でこころ動かされたことを、つらつらと綴っていきます。

「蒼い鳥」 イメージの深海と彷徨うギター

フジファブリックの通算7枚目のシングル。映画「悪夢探偵」のエンディング・テーマでもある。作詞作曲志村正彦。

 

蒼い鳥

蒼い鳥

 

 

子供のころ、江戸川乱歩の本が好きでよく読んだ。扉の向こうに蠢いている、美女や奇形や因習に満ちた物語に胸躍らせた。「蒼い鳥」には、少しそんな匂いを感じる。

 

可能なら 深い海の中から

鼻歌 奏でてごまかしたい

 

可能なら さらけてしまえたらいい

蒼さに足止めをされている

 

鼻歌でごまかしたいという一方で、さらけてしまえたらいいと歌う。

やりすごしたいと思う一方で、姿を現したいとも願っている。

 

今、果てしなく吹き荒れる

風の中 立ってる 時が来るのを待つ

 

突然ドラマチックに展開する世界。

光のない海辺にマントを羽織って立っている男が見える。

昏い世界からの使者のように。

どうしてもその男が志村に見えてならないのだけど。

 

昨日の跡がまた増えている

にらんで踏み潰してしまった

 

にらんで足跡(?)を消す仕草もそれらしい。

神経質なところがあるのだ。

 

羽ばたいて見える世界を

思い描いているよ

幾重にも 幾重にも

 

何も起承転結はありはしない。

浮かぶのは、ただ海辺に立っている志村の姿だけ。

なのになぜ、こうまでも劇的で、胸が騒ぐのか。

 

Light Flight ツアーでは、この「蒼い鳥」が歌われ、演奏された。長い、長いアウトロだった。目をつむり、体を揺らしてギターを奏でる山内総一郎もまた、蒼い海の底に潜っているようだった。完全にあちら側の世界に行っていた。志村が紡いだイメージの深海で、言葉ではなく、嗚咽のようなギターの音色で歌っていたのだ。

 

聴いた後に、長編映画を一本観たような気分にさせる、密度の濃い名曲。