2013年に発売された、フジファブリックとして13曲目のシングル。アルバム「VOYAGER」のエンディング曲でもある。作詞山内総一郎・加藤慎一、作曲山内総一郎。
「VOYAGER」の特典映像「Document 2012 -part 2-」をみると、曲の作成過程が少し覗けて興味深い。3人が一緒に曲を作っている様子がよくわかる。山内総一郎がアゴを突き出してうーうー悩んでいるところに、金澤ダイスケがアドバイスをする。すると、メロディーラインがつながる。
楽曲自体はかなり凝った造りになっているようで、ホーンや鍵盤が重なり合って、教会の音の響きを連想させる浮遊感をもたらしている。そこに浮かび上がる歌はこんな風。
仕舞い込んだ夏の欠片 一つづつ数えながら
悲しい歌 消えないから 耳を塞いで歩き出した
ありふれてた 君の笑顔 一人きりの帰り道
見慣れてたこの街で いつかの記憶探している
今はもういない誰かの事を想っている。頭の中こだまする「悲しい歌」は消えない。
3人体制になって最初のツアーを始めるにあたり、すごく不安があったと山内総一郎は語る。お客さんがゾロゾロ帰ってしまう夢を何度も見たと。デビューしたてのバンドとは違う、既に人気のあったバンドでの後継としてのフロントマン。プレッシャーが大きいのは当然だろう。でも、ツアーで沢山の人に迎えてもらって、それが希望になった、自分たちが進むべき道を照らす光みたいだと思ったと言う。
醒めない夢ならまだ 醒めても夢ならまだ
醒めてる夢は
通り過ぎた夏の欠片 照らす月が映しだす
悲しい歌 消えないけど 君の面影が道標
駆け抜けた20代は、彼らにとって夏だったのか。今見上げるのは冬の空。季節は廻って、またやがて夏がやって来るのだけれど。でもあの夏、あの日は、二度とはないのだ。
響きあう光 戻れない日々のハーモニー
口ずさみながら 瞬いている
遠い日のメロデイ 悲しいだけじゃないから
夜空に散りばめ 輝かせてみせるよ
喪った何かを想う気持ちとそれを導く小さな希望、というのは、この後も繰り返し、フジファブリックの歌に出てくるモチーフの一つとなる。
ラストのホーンの包むような音色に、優しい気持ちになる一曲。