彼方の音楽

毎日の中でこころ動かされたことを、つらつらと綴っていきます。

「若者のすべて」 夏の日の花火のように美しい曲

フジファブリックの歌の中で、一番たくさんの人に聴かれ、愛されているかもしれない曲。2007年の作品。作詞作曲志村正彦。桜井和寿や槇原敬之もカバーしている。

 

若者のすべて

若者のすべて

 

 

真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた

それでもいまだに街は 落ち着かないような 気がしている

 

志村の歌詞によく出てくる晩夏。落ち着かないのは「僕」の気持ち。なぜそわそわしているのか?

 

夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて

「運命」なんて便利なものでぼんやりさせて

 

何かのタイミングがあった。いつもは居ない場所に「僕」は居て、それがたまたまその日で、そして「もしかしたらこれが運命とかってさ」とそわそわしている。そんな情景が浮かぶ。

 

最後の花火に今年もなったな

何年たっても思い出してしまうな

ないかな ないよな きっとね いないよな

会ったら言えるかな まぶたを閉じて浮かべているよ

 

言いたかった台詞。ずっと言えないできた。でも今日会ったらその時は言えるかもしれない。言いたい。わざわざ電話して言うとか、そういうのではなく、故郷の花火で偶然会って、そしたらその時はもしかしたら。その逡巡が、廻る思いが、繰り返されていく。

 

世界の約束を知って それなりになって また戻って

街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ

途切れた夢の続きを取り戻したくなって

 

若者が東京に出て世の中のルールを知り、故郷へ戻る。夕闇の中帰り道、現実の世界に戻っていく。思い出すのはかつて抱いていた憧憬か。失ってしまったものが確かにあり、取り戻せないからこそ胸を締め付ける。感傷的なフレーズ。

 

すりむいたまま 僕はそっと歩き出して

 

そう、取り戻すことはできないのだ。それはわかってる。だから歩き出す。

 

ないかな ないよな なんてね 思ってた

まいったな まいったな 話すことに迷うな

最後の 最後の 花火が終わったら

僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ

 

「まいったな」っていかにも志村が言いそうな台詞そのまんまだ。すごく期待して、「運命があるなら」とか思っていたのに、いざその人と会えると、言葉はうまく口から出てこない。いろいろ考えていたのに。だけど嬉しくて、花火を見上げている。見上げているのはその人と同じ空で、取り戻せないものは確かにあるけど、これから得ていくものもあるのだろう。

 

2007年のこの頃は、志村のイメージする詞曲の世界観と、彼のシンガーとしての調子のバランスが綺麗に取れていたタイミングだったのではないかと思う。この後、志村の世界観はますます研ぎ澄まされていく反面、体調は不安定になっていった。